改正民法と賃貸借契約実務について

京都市中京区所在の西谷・三田村法律事務所の弁護士西谷拓哉です。

コロナウイルスによる感染報告も落ち着いてきたかのように見える今日この頃ですが、東京では未だに100人を超える規模で感染が報告されています。

私たちも弁護士・従業員一同、コロナウイルス感染には気を付けて対応していきたいと思っています。

さて、今回は「民法改正と賃貸借契約」ということでコラムを作成させていただきます。

みなさんもご存じの通り、今年2020年4月1日についに民法改正法(債権法部分)が施行されました。

私たちに身近なところで関係のある賃貸借契約実務に関しても重要な変化が生じていますので、いくつか取り上げて解説させていただきます。

1 一部使用収益不能の場合による減額請求権、契約解除権

 ①賃貸物の一部が使用収益出来なくなり、②そのことについて借主に落ち度がない場合、賃料が使用収益できなくなった割合に応じて減額されるという規定が設けられました(民法611条1項)。

 この規定は①②の要件を満たすときに当然に適用されますので、借主は貸主に請求するまでもなく、当然に一部使用収益不能になった期間の減額を主張できるという点が大きなポイントです。

 また、①賃貸物の一部が使用収益出来なくなり、②使用可能な部分だけでは借りた目的を果たせないという時は、契約の解除も可能となりました(民法611条2項)。借主に落ち度があっても契約解除が可能ですが、その場合は、貸主から損害賠償請求されるリスクは存在します。

2 借主が第三者や賃貸物件の新所有者に対して有する権利の明確化

 借主が、賃借物の利用を妨げる者たちに対して妨害排除請求・返還請求をできる権利(民法605条の4)や、賃貸物件が売却されるなどした場合に新しい所有者に貸主の地位が移転すること(民法605条の2)などが明文化されました。これは争いのない判例法理が明文化されたものです。

3 敷金に関する規定の創設

 これまで民法には敷金に定義規定が存在しませんでした。今回の民法改正で定義規定が置かれることになりました(民法622条の2第1項)。また、敷金の返還を請求することがいつできるかという点について、賃貸借が終了し、目的物が返還されたときであることが明確化されると共に(民法622条の2第1項1号)、どのような債務が敷金から引かれるのかも明確化されました(民法622条の2第2項)。

4 原状回復義務に関する規定の創設

 これまで民法には賃貸物件の明渡し時の原状回復義務やその内容について明確な規定が存在しなかったところ、今回明文化されるに至りました。判例やガイドラインでこれまでも借主が原状回復義務を負うのは、「通常損耗(経年劣化や通常の使用で傷ついたもの)」を除く特別損耗についてであるとされていましたが、これが明文化されました(民法621条)。なお、この規定は任意規定ですが、消費者と事業者の間の契約では、この任意規定を排除する特約についてはその有効性が厳しく審査されるものと考えられます(消費者契約法10条)。

5 賃貸の連帯保証人について

 最後に、連帯保証人について一言触れます。改正民法では、保証人の保護の観点から、保証する金額が定まっていない債務の保証、いわゆる「根保証」というものについて、保証の上限額を定めなければ、保証の効力が生じないこととされました(民法465条の2)。

 賃貸借契約における連帯保証人も、未払賃料や原状回復費用を保証する点で、「保証する金額が定まっていない債務」となります。そのため、上限額を定めなければ、保証の効力が生じないことになってしまうのです。

 契約書への記載の仕方としては「賃料●ヶ月分を上限として」という記載では、賃料額が変更された時に、金額が不明確になる可能性があり、●万円を上限としてという具体的な金額を記載して上限額を特定した方がよいとされています(※この上限額については、いまだスタンダードな考え方があるわけではないですが、賃貸借契約の期間などを参考に決めることが考えられます。)。

 また、賃借人が死亡したことは、保証人が支払うべき債務額の確定事由となります(民法465条の4 1項3号)。これが何を指すかと言うと、たとえば、借主が孤独死し発見が遅れたために部屋が汚損した場合、すでに死亡した時点で債務額が確定しているため、①「死亡後の家賃」、②「死亡後に発見が遅れたために部屋が汚損した損害」については、保証人は責任を負わないとされることになります。

 このように、改正民法は、賃貸借契約実務にも大きな影響を与えていきますので、何かご不安な点があれば、遠慮なく法律相談をお申込みください。