相続法の改正5(相続の効力等の見直し)

京都市中京区所在の西谷・三田村法律事務所の弁護士の西谷拓哉です。

さて、引き続き、2018(平成30)年7月6日に国会で成立した相続法の改正法案についてご紹介していきます。

第5回目は、相続の効力等についてです。

~遺言に反する相続財産の処分が行われた時の取扱いの変更~

 相続法改正前の民法においては、遺言に定められた相続分に反する処分が行われた場合、遺言に定められた相続分の譲渡は無効であると、第三者に対しても主張することが可能でした。

たとえば、相続人が長男と次男のケースにおいて、「不動産を全て長男に相続させる」との遺言があるのに、次男が勝手に不動産の2分の1の持分を売却してしまったような場合、長男は買主に対して、勝手に売却された持分譲渡について無権利であると主張することができました。

 しかし、相続法の改正によって、今後は、長男は上記のようなケースの場合、勝手に売却された不動産2分の1の持分について登記を備えなければ、買主に対して無権利であると主張することができなくなります(改正民法899条の2第1項)。

 なお、改正民法899条の2第1項は、一般的な規定であり、遺言がある場合のみでなく、遺産分割が行われた時や、遺贈が行われた時などにも適用があります。

 ※ただし、相続放棄については、相続による権利の承継の場面ではないので(民法939条参照)、本規定の適用はありません。

~債権の相続による法定相続分と異なる割合での承継についての規定が設けられたこと~

 改正相続法は、債権を相続により法定相続分と異なる割合で承継した場合の取扱いについて新たに規定を設けました(改正民法899条の2第2項)

 債権を相続により法定相続分と異なる割合で承継した時は、その債権の債務者に対して

 ①遺言書に基づくときは遺言の内容を明らかにして

  Or

  遺産分割に基づくときは遺産分割の内容を明らかにして

 ②債務者に対して承継の通知を行う

  Or

  債務者からの承継の承諾をもらう

ことが必要になります。

※なお、前掲の事例のように、債権が相続人の一人から第三者に無断譲渡されてしまった場合などは、第三者に債権の取得を主張するには、上記、②の「通知」「承諾」について、内容証明郵便で通知を発送するなど確定日付のある証書(民法467条2項、民法施行規則5条1項各号)が必要となります。

~相続により法定相続分と異なる割合で義務を承継した場合の規定が設けられたこと~

 相続法改正前の民法では、明文はありませんでしたが、判例・通説は、相続で法定相続分と異なる割合で債務を承継することを取り決めても、債権者には対抗できず、法定相続分に従って支払いをする必要がある(ただし、債権者が異なる割合で債務を承継することを認めれば別)とされていました。

 その考え方を明文化する規定が置かれました(改正民法902条の2)。

~遺言執行者がある場合の相続人の行為の効力に関する規定が設けられたこと~

 相続法改正前の民法では、明文はありませんでしたが、判例は、遺言執行者がある場合の、遺言と異なる財産処分を絶対的無効としていました。

 今回の相続法改正ではこの点を見直し、財産処分は無効であるものの、善意の第三者(遺言執行者がいることを知らず、先に登記を備えた者など)には対抗できないとしました(改正民法1013条2項)。

 また、遺言執行者がいる場合でも、相続人の債権者が、相続財産に対して強制執行を行うことなども妨げられないとの規定が設けられました(改正民法1013条3項)。

~相続の効力等の見直し規定の施行日~

法務省のHPによれば、

相続の効力等の見直しに関する規定は、2019年7月1日から施行されることになっています。

つづく